特定建築物定期調査とは?対象や費用、定期報告の資格者や頻度を解説

建築物の管理者には、建築基準法などの法律に基づく管理と、安全性の維持が求められます。

加えて、建築基準法第12条で定められた「特定建築物定期調査」によって、専門家による調査と定期的な報告が義務付けられています。

なぜなら、建築物の管理を怠ると、人命に関わる大事故に繋がる恐れがあるからです。

今回はそんな「特定建築物定期調査」の概要から対象建築物や費用、調査項目について紹介します。

特定建築物定期調査とは

特定建築物定期調査の概要を以下の3つの観点から解説します。

  • 建築基準法第12条第1項に基づく建物の安全点検・報告制度
  • 調査目的
  • 制度の成り立ち。改正の歴史

それぞれ具体的にみていきましょう。

建築基準法第12条第1項に基づく建物の安全点検・報告制度

特定建築物定期調査は、建築基準法第12条に定められた建物の安全点検・報告制度です。

建築基準法第12条には、以下の4項目の調査・検査が定められています。

  • 特定建築物
  • 建築設備
  • 防火設備
  • 昇降機

4項目のなかの「特定建築物」についての調査が「特定建築物定期調査」です。

そして、特定建築物の所有者・管理者はこの憲法に基づき、定期的に建物の調査を実施し、その結果を管轄の特定行政庁に報告しなければなりません。

また、「特定建築物」とあるように、全ての建物に対しての調査ではなく、国や特定行政庁が定めた特定の基準を満たす建物の調査を行うものです。

調査目的

特定建築物定期調査の目的は「建物を利用する人の命や健康を守ること」です。

建築基準法第1条には、以下のように記されています。

【引用】
この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

第12条に定められている特定建築物定期調査も、この第1条の目的に沿って行われます。

制度の成り立ち・改正の歴史

特定建築物定期調査は、大規模な事故を受け、建物を安全に保つために何度も改正されています。

代表的な改正を以下の表で紹介します。

年号(西暦)

改正内容

災害・事故

昭和34年(1959年)

・定期報告の義務化

・建築物の定義改正

・特殊建築物の範囲拡大

・22条区域指定

 

昭和46年(1971年)

・定期調査の報告周期見直し

水上温泉火災

有馬温泉火災

平成20年(2008年)

・定期調査及び定 期検査の項目、事項、調査・検査の方法及び結果の判定基準の明確化

昇降機等の死亡事故

平成28年(2016年)

・定期調査報告対象として、安全上、防火上又は衛生上特に重要であるものを国が政令で指定。

福岡市診療所火災


人命と健康を守るために、建物の内部・外部だけでなく、エレベーターや防火設備などに関する改正が繰り返されています。

特定建築物定期調査と建築設備定期検査の違い

特定建築物定期調査と建築設備定期検査は、同じ建築基準法12条で定められており、名称が似ていることから、よく混合されます。

それぞれの違いは、調査・検査する対象です。

  • 特定建築物定期調査:建物そのものが対象(敷地・外壁・屋根・内部・避難施設等)
  • 建築設備定期検査:建物の設備が対象(換気設備・排煙設備・非常用の照明装置・給設備設備)
  • 防火設備定期検査:防火扉、防火シャッター、耐火クロススクリーン等が対象


特定建築物定期調査は、建物そのものが対象です。

建物の内部・外部・屋上だけでなく、土壌や避難施設まで調査します。

一方で、建築設備定期検査は建物に備わっている設備が対象で、

  • 給排水設備
  • 換気設備
  • 非常用の照明装置
  • 排煙設備

の4つが主な検査項目です。

根本的な調査・検査対象が異なることを覚えておきましょう。

特定建築物定期調査の対象マンション・建築物は?

特定建築物定期調査の対象建築物は、以下の2種類に分けられます。

  • 政令で指定する建築物
  • 特定行政庁が指定する建築物

まず、政令で指定する建築物は、以下のとおりです。

特定の用途で床面積が200㎡の建築物が該当します。

建物・施設

規模

劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場など

・3階以上の階にあるもの

・客席の床面積が200㎡以上のもの

・地階にあるもの

・主階が1階にない劇場、映画館、演芸場

病院、有床診療所、ホテル、旅館、就寝用福祉施設

・3階以上の階にあるもの

・2階の床面積が300㎡以上のもの

・地階にあるもの

体育館、博物館、美術館、図書館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場、スポーツ練習場

・3階以上の階にあるもの

・床面積が2,000㎡以上のもの

百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、待合、料理店、飲食店公衆浴場、待合、料理店、飲食店、物品販売業を営む店舗

・3階以上の階にあるもの

・2階の床面積が500㎡以上のもの

・床面積が3,000㎡以上のもの

・地階にあるもの

また、特定行政庁が指定する建築物も対象ですが、特定行政庁によって基準は異なります。
東京都を例にすると、以下を満たす建築物が対象です。

  • 学校、学校に付属する体育館で、床面積が2,000㎡以上のもの
  • 5階建以上で延べ床面積が2,000㎡以上の事務所やそれに類するもので、3階以上の階にあって床面積が1,000㎡以上のもの

特定建築物定期調査の定期報告を怠ると、罰則が課せられる可能性があるので、特定行政庁が指定する建築物がわからない管理者は、まずは確認しましょう。

特定建築物定期調査の調査項目の内容・判断基準

特定建築物定期調査の調査項目は、以下の6点です。

  1. 敷地・地盤
  2. 建物外部
  3. 屋上・屋根
  4. 建物内部
  5. 避難施設等
  6. その他

それぞれの調査内容と判断基準を紹介します。

敷地・地盤

敷地・地盤の調査では、敷地内の建物を除いた部分を調査します。

調査項目

調査方法

判断基準

敷地内部・地盤の状況

・地盤

・擁壁

・排水管

・避難通路

・屋外機器

目視

・地盤沈下、傾きがないか

・擁壁に傾き、ひび割れがないか

・排水管の詰り、悪臭はないか

・避難通路は確保されているか

・屋外機器に錆や腐食はないか

 

建物内部

建物内部の調査では、内側の壁・床・天井・照明を確認します。

建物内部の給排水設備や防火設備は「建築設備定期調査」で検査するため、特定建築物定期調査では対象外です。

調査項目

調査方法

判断基準

建物内部の劣化・損傷状況

・壁

・床

・天井

・照明

・換気設備

目視、双眼鏡等やテストハン マー等による打診

・内壁、床、天井等に著しい割れやずれ、錆、損傷がないか

・採光の妨げとなるものが放置されていないか

・換気設備は作動しているか


屋上・屋根

建物内部の調査とは別で、屋上・屋根の調査も行います。

調査項目

調査方法

判断基準

屋上周りの劣化・損傷状況

・屋上

・屋根

・高架水槽などの機器本体

目視、テストハンマー等による打診

・屋上にひび割れ、反り上がりなどないか、歩行上の危険はないか

・屋上周りに著しいひび割れ、剥落がないか

・屋根ふき材に割れがないか

・高架水槽などの機器本体に著しく錆が発生していないか


建物外部

建物内部だけでなく、建物外部も調査対象です。

主に外壁や土台など、建物の外側から見える範囲全体を調査します。

調査項目

調査方法

判断基準

建物外部の劣化・損傷状況

・外壁

・土台

・窓サッシ

目視、テストハンマー等による打診

・外壁が崩れていたり、鋼材に著し錆、腐食がないか

・地盤沈下により土台にひび割れがないか

・窓サッシが変形していないか


避難施設・非常用進入口

建物の避難施設・非常用進入口も調査項目に含まれています。

災害時に安全に避難できるよう、他の調査項目と同様に調査が必要です。

調査項目

調査方法

判断基準

避難施設・非常用進入口の物品等の放置、劣化・損傷状況

・避難通路

・非常用進入口

・階段

・排煙設備

目視

・避難の支障になる物が放置されていないか

・手すりに著しい錆、腐食がないか

・排煙設備が正常に作動するか


その他

上記の調査項目の他にも、地下街・特殊構造・避雷設備・煙突・自動回転ドアといった、特定の建物に備わっている施設・設備も調査対象です。

調査項目や方法は、特定行政庁によっては異なる場合があります。

まずは特定行政庁に確認を取ることをおすすめします。

特定建築物定期調査は何年ごとに実施すべき?

特定建築物定期調査の定期報告の時期は、以下の2種類あります。

  • 国が政令で定めたもの
  • 特定行政庁が定めたもの

国が定めた報告時期は「おおむね6ヶ月〜3年までの間隔をおいて、特定行政庁が定める時期」です。

この6ヶ月〜3年の範囲内で、特定行政庁が報告時期を定めています。

東京都を例に紹介します。

東京都の定期報告時期は、以下のとおりです。

対象建築物

報告時期

劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場、ホテル、旅館、百貨店、マーケット、勝馬投票券発売所、場外車券売り場、物品販売業を営む店舗、地下街

11月1日〜翌年1月31日(毎年報告)

上記以外の建築物

5月1日〜10月31日(3年ごと)

地域によって定期報告時期は異なるので、調査の前に事前に確認しましょう。

定期報告が初回免除となるケース

特定建築物は、建物の規模や用途によって定期調査の報告年度が定められています。

しかし例外として、新築・改築後の特定建築物は、定期報告が初回免除されます。

例えば、3年ごとに定期報告が求められる調査の場合、令和4年度に新築・改築した特定建築物は、令和5年度の調査が免除され、令和8年度に最初の調査報告が必要です。

3年ごとに求められるケースが多く見られますが、前述のとおり、特定建築物の定期報告の対象・頻度は、地域によって異なるのでご注意ください。

詳細は、所属する都道府県・各種機関で確認しましょう。

特定建築物定期調査の報告書の様式

報告書の様式(テンプレート)は、特定行政庁のホームページからダウンロード可能です。

注意点として、特定行政庁によって独自の様式を使用している場合があるため、必ず建築物の所在地の管轄である特定行政庁から取得しましょう。

特定建築物定期調査が可能な資格者

特定建築物定期調査は、専門的な技術が必要なため、資格を持った専門家に依頼しましょう。

建築基準法第12条では、以下の3つの資格のうちいずれかを取得している人だけが、特定建築物定期調査を実施できると定められています。

  • 一級建築士
  • 二級建築士
  • 建築物調査員資格者証の交付を受けている者

基本的には、定期報告を請け負っている検査会社に依頼し、所属している資格者に担当してもらいます。

特定建築物定期調査の費用相場

一般的に、特定建築物定期調査は、以下の会社に依頼します。

  • 建設会社
  • 工務店
  • 設計事務所
  • 不動産管理会社
  • 設備業者

特定建築物定期調査の費用は、建物の種類・依頼元によって異なります。

下記はひとつの基準として、参考にしてみてください。

延べ床面積

マンション

事務所ビル

その他

〜1,000㎡

35,000円

45,000円

55,000円

1,000㎡〜2,000㎡

45,000円

60,000円

70,000円

2,000㎡〜3,000㎡

55,000円

70,000円

80,000円

3,000㎡〜4,000㎡

65,000円

80,000円

90,000円

4,000㎡〜5,000㎡

70,000円

90,000円

100,000円

初めて特定建築物定期調査を依頼する方は、複数社からの相見積もりをおすすめします。

特定建築物定期調査を怠った場合の危険性・罰則

特定建築物定期調査を怠った場合、経年劣化や腐食、部分損傷が生じていても気づけません。

建物の異常の放置は、以下のような大きな事故につながる危険性があります。

  • 壁の崩落
  • 道路の陥没
  • 金属腐食による有害物質の発生
  • 避難経路の不整備による二次災害

人命に関わる事故になり兼ねないので、必ず定期的な調査が必要です。

また、特定建築物定期調査を怠ったり、虚偽の報告をすると、罰則を課せられる可能性があります。

建築基準法101条には、建築基準法第12条第1項に基づく特定建築物の定期調査報告をせず、または虚偽の報告をした者は、100万円以下の罰金に処すると示されています。

特定建築物定期調査を業者に依頼する場合の流れ

特定建築物定期調査の依頼の流れは、以下のとおりです。

  • 特定行政庁から検査通知書が届く
  • 検査会社を探す
  • 書類を準備する(建築平面図・設備図面・面積記載図など)
  • 検査を行う

定期調査の依頼元(建物の所有者もしくは管理者)が行うのは「2.検査会社を探す」と「3.書類を準備する」の2点です。

しかし「1.特定行政庁から検査通知書が届く」は、必ず届くとは限りません。

対応は特定行政庁によって異なるので、通知がなくても検査を実施できるように、検査時期はしっかりと把握しておきましょう。

また、準備する書類などで不明点がある時は、管轄の特定行政庁に確認しましょう。

「4.検査を行う」の以降は、検査会社が作成した報告書を確認・押印し、再度検査会社に提出すれば、特定行政庁に提出してくれます。

特定建築物定期調査まとめ

特定建築物定期調査を行うことで、建物の安全が保たれます。

一方で、調査を行わないと建物の異変に気づかず、人命に関わる大事故につながりかねません。

未然に防ぐためにも、管理者は必ず特定建築物定期調査を実施しましょう。

そんな特定建築物定期調査を行うには、専門的な知識と技術が保証されている資格者が必要です。

検査をご希望の方は、プロフェッショナルである「ヒロ総合メンテナンス合同会社」にぜひご相談ください。

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