外壁赤外線調査は、建築基準法による建築物定期調査項目の外壁調査の方法のひとつです。
建築物の所有者・管理者には、専門家による検査と定期的な報告が義務付けられています。
今回はそんな外壁赤外線調査の概要から全面打診調査との違い、検査項目や費用、ガイドラインについて紹介します。
外壁赤外線調査とは?
外壁赤外線調査とは、建築物の外壁にひび割れや浮き、亀裂などの不具合が発生していないか調査し報告するための制度です。
大元は建築基準法第12条で、以下の4項目の定期検査・報告が定められています。
- 特定建築物
- 建築設備
- 防火設備
- 昇降機等
外壁赤外線調査は、このなかの「特定建築物定期調査」に該当します。
これらの調査は、建築物の所有者・管理者が定期的に調査を実施し、特定行政庁への報告が必要です。
外壁赤外線調査は義務?
外壁赤外線調査は、建築基準法第12条で定められている「特定建築物定期調査」の外壁調査方法のひとつで、法的義務のある調査です。
もし報告が漏れていたり、虚偽の報告をした場合、建築基準法第101条に定められた罰則(100万円以下の罰金)が課せられる可能性があります。
建築物を安全に利用してもらうためにも、調査・報告は必ず実施しましょう。
特殊建築物の定期報告制度における赤外線ガイドライン
特殊建築物の定期報告制度には、国土交通省によって赤外線ガイドラインが定められています。
このガイドラインが設けられた目的は、以下の2つです。
- 建築基準法第 12 条の定期報告制度において、新技術によるタイル等外壁調査の合理化を図るため
- 赤外線装置による 外壁調査・赤外線装置を搭載したドローンによる外壁調査をテストハンマーによる打診と同等以上の精度で実施するため
また、ガイドラインには、以下の内容が明記されています。
- 赤外線調査・ドローンを用いた赤外線調査の概要
- 適用条件
- 打診との併用の必要性
- 事前調査内容
- 調査計画書の作成に
- 調査の実施方法
- 報告書の作成
新技術であることから、ガイドラインには事前準備から報告書の作成までの流れが明記されています。
とくに外壁調査が初めての方、ドローンを用いて調査を実施したいと考えている方は、一度目を通しておきましょう。
外壁のメンテナンス不足によるタイルの剥落事故
外壁のメンテナンスや調査が不足すると、さまざまな不具合・事故が発生してしまいます。
実際に、過去には以下のような事故が多発しました。
- 平成元年 公共賃貸住宅のタイル落下による死亡事故(福岡県)
- 平成元年 オフィスビルのタイル落下による破損事故(愛知県)
- 平成2年 事務所のタイル落下による負傷事故(大阪府)
- 平成2年 大学のタイル落下による破損事故(福岡県)
また、外壁以外にも、設備のメンテナンス不足で以下のような事故が発生しています。
- 平成18年 公共賃貸住宅のエレベーターにおける死亡事故(東京都)
- 平成19年 複合施設のエレベーターにおける発煙事故(東京都)
- 平成19年 遊園地のジェットコースターにおける死亡事故(大阪府)
- 平成19年 雑居ビルの広告看板落下による負傷事故(東京都)
- 平成25年 ビルにおける外壁モルタルの一部落下(大阪府)
- 平成26年 共同住宅における外壁モルタルの一部落下(大阪府)
- 平成28年 ビルにおける外壁タイルの一部落下(大阪府)
これらの事故がきっかけで、平成20年に建築基準法の改正が実施され、定期点検が義務化・検査基準が厳格化されました。
外壁に発生する劣化・不具合事例
外壁に発生する劣化・不具合事例には、主に以下のようなものがあります。
- ひび割れ
- 浮き(はらみ)
- 欠け
- エフロレッセンス(白華現象)
- 目地劣化
- 爆裂
これらの劣化・不具合はごく一部です。
調査を行うと、なかにはほんのわずかな劣化などが見つかります。
しかし、そのわずかな劣化も、放置しておくと徐々に広がり、大きな事故を招く要因になりかねません。
建築物の所有者・管理者・調査会社には、漏れのない適切な調査が求められます。
外壁調査は「赤外線」と「全面打診」の2種類
外壁調査には以下の2種類の調査方法があります。
- 赤外線調査
- 全面打診調査
それぞれの特徴・違いは、以下のとおりです。
赤外線調査 |
全面打診調査 |
|
特徴 |
調査に赤外線サーモグラフィーやドローンを用いる |
壁の表面を打診棒で叩くことで打診音から外壁の異常を確認 |
調査方法 |
対象となる建物の写真を赤外線サーモグラフィー・ドローンで撮影。浮きや剥離、ひび割れなど確認。 |
仮設足場・高所作業車・ゴンドラなどを利用し、人間の手で調査。 |
メリット |
費用を抑えて安全に短期間で調査を実施できる |
赤外線よりも調査結果の精度が高い |
デメリット |
建物によって調査が行えない場合があり、信頼性に欠けることがある。 |
高所での作業に危険を伴う |
赤外線調査と全面打診調査を使い分けて、漏れなく調査を行いましょう。
外壁赤外線調査の調査項目・調査方法・流れ
外壁赤外線調査の調査項目・調査方法・流れを解説します。
それぞれガイドラインに明確に記載されています。
調査項目
特定建築物定期調査の外壁調査では、外壁の落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分が対象となります。
具体的には、壁面の前面かつ壁面高さの概ね2分の1の水平面内に、公道、不特定または多数の人が通行する私道、構内通路、広場を有するものと定められています。
また、壁面直下に屋根や庇等、植込み等が設置され災害の危険がないと判断される部分は対象外です。
加えて、人が通らない通路についても調査対象外となる場合がありますが、特定行政庁への確認が必要です。
調査方法・流れ
外壁赤外線調査は、以下の流れで実施します。
- 事前調査・ヒアリング
- 撮影計画書の作成
- 赤外線カメラによる撮影+部分打診
- 赤外線画像の解析
- 調査結果図の図面化
- 調査結果の報告
細かい内容は、ガイドラインに明記されているので確認してみてください。
調査方法についても、以下のように明記されています。
- 撮影解像度が 25 mm / pix 以下となるように、撮影距離、赤外線カメラの視野角(対物レンズ)を選定
- 赤外線画像中に変温部を確認した場合、赤外線画像および可視画像を保存
- 保存した画像の面、位置、階数などを記録
- 変温部にひび割れがあるかどうかを、肉眼または双眼鏡を使って目視で確認して記録
- 以下で示すガイドライン指定の性能を持った赤外線カメラを使用して撮影。
『温度分解能が 0.1℃以下』『対象壁面で 25 mm /pix の解像度』『画像解析時に温度表示が調整可能なフォーマットで画像保存機能を有する』『画像の温度表示などを調整する機能を有するソフトがある』
とくに赤外線調査が初めての方は、ガイドラインを確認して適切な調査を行いましょう。
外壁赤外線調査のメリット
外壁赤外線調査のメリットは、以下の3つです。
- 費用を抑えられる
- 短期間で実施できる
- 安全に実施できる
ひとつずつ解説します。
費用を抑えられる
赤外線調査は、調査のために仮説足場を組む必要がないため、費用を抑えられるのが大きなメリットです。
一方で、全面打診調査の場合は、仮説足場を組んで行うケースが多いため、赤外線調査と比べて費用がかかります。
費用を抑えて外壁調査を行いたい建築物の所有者・管理者は、赤外線調査がおすすめです。
短期間で実施できる
短期間で実施できる点も、赤外線調査のメリットです。
赤外線調査の場合、足場を組まずに外から壁を撮影するだけなので、短期間で調査の実施が可能です。
一方で全面打診調査は、仮説足場を組むなどして人間の手で調査するため、時間がかかります。
緊急の調査の場合、短期間で実施できる赤外線調査がおすすめです。
安全に実施できる
赤外線調査は、高所の外壁調査の場合、ドローンを用いて実施する場合があります。
そのため、全面打診調査と比べて安全に実施可能です。
全面打診調査は、仮説足場や高所作業車、ゴンドラ、ブランコなどを用いて人間の手で調査するため、高所での調査に危険が伴います。
外壁赤外線調査のデメリット
外壁赤外線調査のデメリットは、以下の2つです。
- 調査結果が信頼性に欠ける場合がある
- 建物によっては調査が行えない場合がある
それぞれ解説します。
調査結果が信頼性に欠ける場合がある
赤外線調査は、赤外線カメラによる撮影・解析によって行われるため、細かい浮き・割れなどの不具合が判断できない可能性があります。
そのため、信頼性に欠ける場合があるのがデメリットのひとつです。
また、とくに高所の調査ではドローンを用いるので、操作の技量と赤外線の知識を持った調査会社による調査でなくてはいけません。
建物によっては調査が行えない場合がある
ドローンを用いた調査の場合、建物・場所によっては飛行を禁止される恐れがあります。
国土交通省は、飛行禁止区域を以下のように設定しています。
- 空港周辺
- 緊急用務空域
- 150m以上上空
- 人口集中地区
- 国の重要な施設等
- 外国公館周辺
- 防衛関係施設周辺
- 原子力事業所周辺
建築物の外壁調査で関わってくるのは「人口集中地区」です。
調査物件が人口集中地区に建てられている場合は、飛行開始予定日の10日前までに国土交通省へ申請を行いましょう。
外壁赤外線調査の費用
外壁赤外線調査の費用相場は、以下のとおりです。
費用相場 |
|
赤外線調査 |
120~350(円 / ㎡) |
全面打診調査 |
200~700(円 / ㎡) |
このように、外壁調査は、赤外線調査の方が費用を抑えて実施可能です。
しかし、建物によっては実施できなかったり、調査結果が信頼性に欠ける場合もあるため、全面打診調査との使い分けが重要です。
また、見積もりを取得する会社によって費用は異なるので、あくまで参考程度に考えてください。
外壁赤外線調査のまとめ
外壁赤外線調査を漏れなく適切に実施することで、建築物利用者が安全に施設を利用できます。
一方で、検査を怠ってしまうと、外壁に異変があっても気づかず、紹介したような大事故を招いてしまう恐れがあります。
建築物の所有者・管理者は必ず定期的な外壁調査を実施しましょう。
ご希望の方は、プロフェッショナルである「ヒロ総合メンテナンス合同会社」にぜひご相談ください。
お困りごとやご不明な点がある方も、お気軽にご連絡ください。