エレベーター定期検査は、建築基準法によって定められた法的検査です。
建築物の所有者・管理者には、専門家による検査と定期的な報告が義務付けられています。
今回はそんなエレベーター定期検査の概要から保守点検との違い、検査項目や費用、報告済証について紹介します。
エレベーター定期検査とは?
エレベーター定期検査とは、建築基準法第12条に定められた建築物の安全性の確保を目的とした制度の一つです。
建築基準法第12条には、以下の4項目の定期検査・報告が定められています。
- 特定建築物
- 建築設備
- 防火設備
- 昇降機等
エレベーター定期検査は、このなかの「昇降機等定期検査」に該当します。
具体的には、12条1項で特定建築物定期調査、12条3項で建築設備定期検査・防火設備定期検査・昇降機等定期検査が定められています。
建築物の所有者・管理者は、対象の建築物に備わっているエレベーターの定期的な検査と報告書の提出を行わなければなりません。
エレベーター定期検査は義務?
エレベーター定期検査は、法的義務のある検査です。
そのため、建築物の所有者・管理者には、定期的な検査の実施と検査結果の報告が義務づけられています。
もし検査・報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合、罰則を課せられる可能性もあります。
エレベーターの欠陥の見落としは、建築物利用者の命に関わる大事故の発生を招く恐れもあるため、必ず適切な方法で定期的に実施しましょう。
エレベーター定期検査報告済証とは?期限切れは?
エレベーター定期検査報告済証とは、定期検査報告を行ったエレベーターに配布される証です。
(一財)日本建築設備・昇降機センターが制定したもので、利用者に定期検査報告を実施していることを知らせ、「安全」・「安心」・「信頼」を提供する役割があります。
配布された後は、エレベーターの見えやすい位置への掲示が必要です。
また、エレベーター定期検査報告済証の有効期限は、定期検査報告の指定月欄に記載されている年月が該当します。
もし期限切れとなってしまった場合は、すみやかに検査・報告を実施しましょう。
加えて、「定期検査報告手続中」の面が表になるよう差替えて掲示が必要です。
エレベーター定期検査と保守点検・性能検査の違い
エレベーターの点検には、以下の3つの種類があります。
- 定期検査報告
- 性能検査・定期自主検査
- 保守点検
それぞれの違いは、次の表のとおりです。
定期検査報告 |
性能検査・定期自主検査 |
保守点検 |
|
法令 |
建築基準法第12条 |
性能検査:労働安全衛生法 定期自主検査:クレーン等安全規則 |
建築基準法第8条 |
罰則 |
100万円以下の罰金 |
6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金 |
なし |
検査資格 |
・一級建築士 ・二級建築士 ・昇降機等検査員 |
性能検査:労働基準監督署長または登録性能検査機関 定期自主検査:登録性能検査機関 |
なし ※国土交通省「昇降機の適切な維持管理に関する指針」で「昇降機に関する豊富な知識及び実務経験に裏打ちされた技術力を有する者」を推奨 |
検査対象 |
以下を除くすべてのエレベーター ・ホームエレベーター ・積載量1トン以上のエレベーター |
積載量1トン以上のエレベーター |
すべてのエレベーター |
報告先 |
特定行政庁 |
報告義務なし |
報告義務なし |
点検の種類によって法令や罰則、検査資格、対象、報告先が異なります。
ひとつずつ詳しく解説します。
法令・罰則
エレベーター定期検査は、建築基準法第12条第3項で定められた、建築設備の法定検査です。
定期検査とあるように、建築物の所有者・管理者は、定期的にエレベーターの安全点検を実施し、特定行政庁への報告が義務づけられています。
そのため、報告の怠りや虚偽の報告をした場合、建築基準法第101条に定められた罰則(100万円以下の罰金)が課せられる可能性があります。
一方で、保守点検は、定期検査と同じ建築基準法の第8条に定められている点検です。
具体的に建築物の所有者・管理者には、常時適法な状態に維持するように努めるよう定められており、実現する方法として国土交通省から「昇降機の適切な維持管理に関する指針」が公表されています。
ただし、点検の法的義務や罰則はありません。
そして、性能検査・定期自主検査は、それぞれ労働安全衛生法とクレーン等安全規則に定められています。
法的義務がある点検で、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられる場合があります。
それぞれの点検の法的義務・罰則の有無を把握し、漏れなく実施しましょう。
検査対象
エレベーター定期検査は「ホームエレベーター」と「積載量1トン以上のエレベーター」を除くすべてのエレベーターが検査対象です。
住宅に設置されているエレベーターの定期検査報告は必要ありません。
また、積載量1トン以上のエレベーターの定期検査報告も不要で、代わりに労働安全衛生法による性能検査が義務づけられています。
一方で、保守点検は、すべてのエレベーターが対象です。
法的義務はありませんが、建築物の利用者が安心・安全にエレベーターを使用できるように、適切な維持管理を行いましょう。
検査資格
エレベーター定期検査は、以下の資格を有した人のみが実施できます。
- 一級建築士
- 二級建築士
- 昇降機等検査員
設備の欠陥は人命に関わるため、誰でも検査を実施できるわけではありません。
建築物の所有者・管理者は、エレベーター定期検査を行う際は、上記の資格を持った人が所属する検査会社に依頼しましょう。
そして、性能検査・定期自主検査は、労働基準監督署長または登録性能検査機関にのみ検査資格があります。
定期検査と異なるので、区別しておきましょう。
また、保守点検の検査資格は、明確に定められていません。
しかし、国土交通省の「昇降機の適切な維持管理に関する指針」では、「昇降機に関する豊富な知識及び実務経験に裏打ちされた技術力を有する者」による検査が推奨されています。
保守点検を実施する際は、定期検査や性能検査の検査資格者に依頼すると良いでしょう。
報告先
エレベーター定期検査は、定期的な検査の実施と特定行政庁への報告が義務づけられています。
報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合、100万円以下の罰金を課せられる可能性があるので、適切に行いましょう。
一方で、性能検査・定期自主検査と保守点検には報告義務・報告先はありません。
とはいえ、建築物の維持管理に点検は必要不可欠です。
性能検査・定期自主検査には罰則も定められているので、怠らずに実施しましょう。
エレベーター定期検査の検査項目・検査方法
エレベーター定期検査の検査項目と検査方法を紹介します。
検査項目は国土交通省によって定められているので、漏れなく把握し適切な方法で検査を実施しましょう。
エレベーター定期検査の検査項目とその内容は、以下のとおりです。
検査項目 |
検査内容 |
エレベーター |
・機関室の通路、階段、戸の施錠、室内などに問題がないか ・制御器は正常に作動するか ・階床選択機、巻上げ機、ブレーキなどは正常に作動するか ・電動発電機に異常はないか ・速度は適切か ・降下防止装置の設置や作動に問題はないか ・かごの設置、構造、ドア、操作盤、操縦機などに問題はないか |
エスカレーター | |
小荷物専用昇降機 | |
遊戯施設等 |
検査内容は非常に多岐に渡りますが、主に上記の内容を確認します。
また、検査方法としては「目視・触診・聴診・測定・機器の動作確認」によって行われます。
エレベーター定期検査の頻度
エレベーター定期検査の頻度は、特定行政庁によって異なりますが、おおむね6ヶ月〜1年の間隔においての実施が求められます。
多くの特定行政庁では1年ごとの実施で定められていますが、建築物の所有者・管理者は、所轄の特定行政庁への確認をおすすめします。
誤った認識で本来求められる時期・頻度に検査を実施しなかった場合、罰則が課せられる可能性もあるので必ず確認しましょう。
エレベーター定期検査の費用相場
エレベーター定期検査の費用相場は、以下のとおりです。
契約形態 |
メーカー系 |
独立系 |
フルメンテナンス(FM)契約 |
4万円〜6万円 |
3万円〜5万円 |
POG契約 |
3万円〜5万円 |
2万円〜4万円 |
エレベーター定期検査の費用は、エレベーター保守会社の種類や点検プランによって異なります。
まず、エレベータ保守会社には、以下の2種類があります。
- メーカー系:東芝、三菱、日立などのメーカー系列に属している保守会社
- 独立系 :メーカー系列に属せず、すべてのメーカーのメンテナンスを行う保守会社
独立系はエレベーターのメンテナンスや保守点検を主業務にしているため、費用は独立系の方が安価であるケースが多いです。
一方で、独立系はメーカー系と比べて歴史が浅く実績も少ないのがデメリットです。
設備の欠陥の見落としは人命に関わります。
検査会社を選ぶときは、費用面だけではなく、検査会社の技術力や実績を加味して選びましょう。
そして、点検プランも以下の2種類に分かれます。
- フルメンテナンス(FM)契約:部品の修理や交換の費用は別途発生しない
- POG契約:部品の修理や交換が別料金
どちらもエレベーターの点検・給油・調整・消耗品の交換を行ってくれるプランです。
ただ、フルメンテナンス契約には部品の修理や交換の費用が含まれているため割高です。
費用を抑えたければPOG契約が良いでしょう。
エレベーター定期検査のまとめ
エレベーター定期検査を実施することで、建築物利用者が安全に施設を利用できます。
一方で、検査を怠ってしまうと、エレベーターに異変があっても気づかず、大事故を招いてしまう恐れがあります。
そのような事態を未然に防ぐためにも、建築物の所有者・管理者は必ず定期的なエレベーター定期検査を実施しましょう。
ご希望の方は、プロフェッショナルである「ヒロ総合メンテナンス合同会社」にぜひご相談ください。
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