特定天井は、建築基準法に規定された天井の枠組みです。
特定建築物定期調査の調査項目の一部であるため、建築物の管理者・所有者には、調査・報告が義務づけられています。
今回は、特定天井の定義や耐震天井との違い、検証ルートについて解説します。
特定天井とは
特定天井について、以下の観点から解説します。
- 特定天井の定義
- 特定天井が制定された背景
- 耐震天井との違い
それぞれ具体的にみていきましょう。
特定天井とは建築基準法第39条第3項に規定された天井
特定天井とは、建築基準法第39条第3項に規定された天井です。
天井の脱落によって大きな被害をもたらす吊り天井が特定天井として規定されます。
加えて、特定天井は、国土交通大臣の定めた構造方法を用いて設計されなければならないことも定められています。
詳しくは、建築基準法第39条第3項をご確認ください。
特定天井が制定された背景
特定天井が制定された背景には、東日本大震災があります。
当時、地震の影響で体育館や商業施設といった大型施設の天井が脱落し、大きな被害をもたらしたことを受け、政府は耐震性向上のための天井構造の見直しが必要と判断しました。
そして、平成26年4月の建築基準法の改正で建築基準法第39条第3項が追加され、特定天井に関する内容が制定されました。
具体的には、特定天井の定義に加え、建築基準法改定後に作られた特定天井は、強固な耐震性を持たせるために、国土交通大臣が定める基準に適合する構造方法で設計しなければならないというものです。
特定天井と耐震天井の違い
特定天井と混同されやすいもので「耐震天井」という天井があります。
耐震天井とは、以下の3つの対策が施された吊り天井のことです。
- パーツの補強
- ブレースの設置
- クリアランスの確保
パーツは、具体的には吊り天井に備えられているクリップやハンガーなどを指します。
これらのパーツは、地震の振動で動いたり変形してしまう恐れがあるため、ビスで固定するなどして補強し、強度を高める必要があります。
さらに、吊り天井が地震によって横揺れしないように、ブレースの設置も必須で行いましょう。
吊りボルトと天井面に対して斜めにブレースを設置することで、横揺れに対する強度が高まります。
加えて、天井と壁の間のクリアランスの確保も重要です。
吊り天井は、地震による横揺れが原因で壁に衝突し、脱落する恐れがあります。
ブレースの設置と合わせてクリアランスも確保できれば、天井や壁の脱落を防げます。
また、耐震天井は、特定天井のように建築基準法によって規定された天井ではない点も覚えておきましょう。
法的な定期点検の義務もありません。
特定天井は特定建築物定期調査の対象
特定天井は、特定建築物定期調査の対象です。
そのため、建築物の管理者・所有者には、定期的な調査と報告が義務づけられています。
特定建築物定期調査の調査項目は、以下の5つです。
- 敷地・地盤
- 建物外部
- 屋上・屋根
- 建物内部
- 避難施設・非常用進入口
特定天井は、上記の「建物内部」に該当します。
特定天井の調査では、主に目視・双眼鏡で、著しい割れやずれがないか確認します。
加えて、国土交通省が定めた3つのルートのいずれかに沿って設計されているかの確認も必要です。
特定天井の検証ルート
特定天井の検証ルートは、以下の3つです。
- 仕様ルート
- 計算ルート
- 大臣選定ルート
建築基準法改正後に建てられた建築物の特定天井は、上記3つのルートにいずれかに適合していなければなりません。
それぞれのルートについて解説します。
仕様ルート
仕様ルートは、国土交通省告示第771号に規定された数値基準等をクリアすることで天井の脱落リスクを検証するルートです。
具体的には、以下の基準のクリアが必要です。
- 天井の単位面積質量は 20kg/㎡以下とすること
- 吊り長さは3m以下で、おおむね均一とすること
- 吊り材は1本/㎡以上を釣合い良く配置
そのほかにも、地震の横揺れで吊り天井が壁に衝突しないようにクリアランスを十分に設けるなどの基準が定められています。
詳しくは、国土交通省の公式資料をご確認ください。
計算ルート
計算ルートは、仕様ルートに定められた基準のクリアが難しい特定天井が、国土交通省告示第771号が定める計算によって検証するルートです。
主に、天井の単位面積質量20kg/㎡以下の条件をクリアできない大型の天井が対象となるケースが多いです。
詳しい計算方法は、国土交通省告示第771号をご確認ください。
大臣認定ルート
仕様ルートや計算ルートで検証できない特殊な特定天井は、大臣認定ルートで検証を行います。
大臣認定ルートの検証方法には、以下の2種類があります。
- 時刻歴応答解析で検証
- 実験および数値計算で検証
詳しくは、建築基準法をご確認ください。
また、一般的な特定天井は、仕様ルートまたは計算ルートで検証できるものが多いため、大臣認定ルートの事例はごく稀です。
既存建築物の措置
新築建築物だけでなく、既存建築物の天井にも、落下防止措置が必要です。
天井が損傷しても落下しないように、ネットの設置や天井をワイヤー等で吊るすなどの対策を行いましょう。
特定天井の注意事項
建築基準法第39条第4項では、特定天井には劣化しにくい材料や、錆止めを使用するように規定されています。
詳しい内容は、建築基準法第39条第4項をご確認ください。
特定天井のある建築物の管理者・所有者は、検証ルートの基準のクリアだけでなく、材料の使用についても十分に把握しておきましょう。
両方の基準をクリアすることで、地震による天井脱落の被害を防げます。
耐震性に優れた膜天井とは?
特定天井のほかにも、耐震性に優れた天井構造として「膜天井」があります。
膜天井とは、その名のとおり、軽量の膜素材の天井に使用することで、天井脱落のリスクを軽減した天井です。
膜素材は1mmほどの厚さですが、落下物を受け止められるだけの強度を持っているため、落下物が膜素材を貫通してしまう、膜素材自体が脱落してしまう危険性は低いです。
また、万が一脱落したとしても、従来の天井材と比べて非常に軽量なため、利用者や建築物に与える被害を最小限に抑えられます。
加えて、曲線的でゆとりとあたたかみのあるデザインも注目されており、実際に成田空港などの公共の大型施設で取り入れられています。
特定天井のまとめ
特定天井は、東日本大震災による甚大な被害を受けて制定されました。
特定天井の認証ルートの基準をクリアすることで、当時のような事態を未然に防げます。
そのため、特定天井のある建築物の管理者・所有者は、必ず特定建築物定期調査を実施し、特定天井に不備や異常がないか確認しましょう。
そして、特定建築物定期調査を行うには、専門的な知識と技術が保証されている資格者が必要です。
検査をご希望の方は、プロフェッショナルである「ヒロ総合メンテナンス合同会社」にぜひご相談ください。